開運印鑑から新たな価値へ:福井県鯖江市の100年企業が挑む事業承継の革新

 
福井県鯖江市で開運印鑑の製造、販売を手掛ける株式会社小林大伸堂。四代目小林照明社長は、先代から受け継いだ印鑑製造販売業をもとに、ネット通信事業で売り上げを伸ばしましたが、行政手続きのデジタル化(マイナンバーカードなど)が普及すれば、印鑑市場は縮小傾向になると見込まれます。長男であり五代目の小林稔明氏への事業承継も考え、新規事業の必要性を感じていました。実はすでに、奥様である専務の小林美和子氏が担当する新規事業では宝石を素材として使った、宝石印鑑を販売しており、そこからジュエリー、アクセサリー方面へ商品展開を広げていますが、まだ収益の柱になるほどの戦略や強みはありません。ご家族の価値観をすり合わせながら、小林大伸堂として何を守り、何を変えるのか探っていきました。

開運印鑑

小林大伸堂が製造・販売する開運印鑑とは、印鑑を作成する際に、彫刻する名前の文字を縁起の良い画数にアレンジしたり、幸運を呼び寄せる書体を使ったりして、開運の願いを込めて製作するものです。
小林大伸堂は購入者が前向きな気持ちになることを支援する「背中を押す」お守りのようなものと考え、誠実な姿勢で印鑑を販売してきたため、そのポリシーが信頼されたのか、多くのリピーターがいます。また贈り物として「出産祝い」「就職祝い」「結婚祝い」といった人生に一度のお祝いのタイミングで、両親や祖父母が子供や孫に贈るものとしての需要も高いです。その一方で、会社の成長を願って、象牙のような高級素材をふんだんに使った、サイズの大きな印鑑を求め、会社の成長を願う人もいます。また美和子専務が販売している宝石印鑑は女性に人気があり、どうせ持つなら美しい印鑑をとアクセサリーとしての価値を重視して購入する方も。印鑑は種類や購入シーンが多彩で購入時に重視する点もそれぞれなのです。

「背中を押す」という価値

事業を理解するために、 照明社長、美和子専務、長男稔明さんにお話しを伺うとともに、インターネット上の印鑑に関する情報、そしてお客様から頂いたレビューの分析を行いました。印鑑購入者のレビューには「素晴らしい印鑑」「自分には過ぎた印鑑」というような感動レビューが並んでいました。印鑑の役割は銀行や行政手続きにおいて本人を認証するだけなので、「背中を押す」という小林大伸堂のポリシーがお客様に伝わって、価値として強く受け止められているように思えました。そこで開運印鑑で「背中を押す」ということの意味をもっと掘り下げることにしました。

強い想いを込めた贈り物

そこで現会長である三代目代表、小林勝三氏からもお話をうかがいました。当時は人口も少なく、周辺の人たちはほとんど顔見知りという状態だっといいます。印鑑を買うタイミングは出産、卒業、結婚など人生の転機に向き合っている人が多いため、自然と気持ちに寄り添い、一言励ましの言葉を添える、そんな接客を繰り返してきた勝三さん。その結果、「人生に詳しい人」としてアドバイスを求めらえることが多くなったといいます。相対的に値段も高い開運印鑑を選ぶ人は、人生の重要なシーンに直面している場合が多いのです。そのため、子供が生まれたのを祝う気持ち、一人立ちする子供に幸せになって欲しいという強い気持ち込められているのです。「素晴らしい印鑑」とは、その気持ちを伝えることができる贈り物ということなのです。

ウェブサイトリニューアルで売り上げが1.5倍以上に

気持ちを伝えることができる贈り物、というお客様感じる価値をもっとわかりやすく伝えるために、「運気」という価値を売る開運印鑑から、「想い」を贈る贈答用印鑑にウェブサイトをリニューアルしました。TOPページを、画数と運気のイメージから、お祝いシーンのギフトのイメージに変更。さらに出産、卒業・成人、結婚・入籍などのシーンごとに、商品の提案のページを作成しました。その結果、売上が1.5倍~2倍になりました。

感動を生む三つの要素「名印想(めいいんそう)」

印鑑が必要とされなくなっても、他の形で「想いを込めた贈り物としての価値」を実現できないか、ここにヒントがありました。そこで気づいたのが名前の価値です。名前は人生で最初にして最大の贈り物と言われており、開運印鑑が出産祝いの贈り物として人気だった大きな理由は、名前を扱っているという点にあったのです。
そこで、印鑑市場がなくなっても新しい商品を開発し、同じように感動的な贈り物を提供していくために必要なことを整理し、名前、デザイン、想いの3つの要素にまとめました。名前は最初で最大の贈り物、デザインは印鑑の場合は画数を変えた文字の彫刻、すなわち大切な子供のためにオーダーメイドであるという特別感、そして贈り手の伝えたい想い。この3要素が揃うことで感動が生まれているというコンセプトを「名印想」と名付け、小林大伸堂の事業領域の定義としました。3つの要素から1つでも書けるとその価値は大きく失われてしまうのです。小林大伸堂がこれから開発していく商品は名印想の3つの価値をもっているものだけにする。しかしここで1つ問題が発生しました。美和子専務が扱う印鑑以外のアクセサリー系の商品は名印想のコンセプトに当てはまらないのです。結論として事業を3つに分けることになりました。従来の開運印鑑事業は照明社長が運営、アクセサリー事業は美和子専務が運営、そして新しい名印想事業は長男の稔明さんが運営することになりました。両親が経営から退くタイミングで名印想事業のみが残るだろう、という計画です。

新商品「こまもり箱」の開発

新しい価値のコンセプト、名印想を踏まえて最初の商品化にこぎつけたのが「こまもり箱」です。きっかけになったのは「想いがこもった名前の命名理由を文章化し、出産祝いの贈り物にしてはどうか」というアイデアからでした。さらに印鑑保管ケースを一新するというアイデアを組み合わせました。長男の稔明さんの「桐箱に印字してはどうか」という発想から、従来の印材の刻印に使っているレーザー加工機にて命名理由を桐箱に文章化。さらに桐箱のサイズを従来のものより小さくしたことで、印鑑と一緒に、銀行の預金通帳や母子手帳も保管できるようになり実用性も増しました。印鑑と一緒についてくる桐箱に新たな価値を持たせることで、印鑑のニーズがなくなっても事業を継続できるような商品を開発したのです。

事業承継を目指して新規事業を推進中

こまもり箱は、開運印鑑の販売サイトでもオプションとしても販売していますが、印鑑の代わりに出産祝いや成人のお祝い、結婚の記念品として市場開拓に向けて、新たなウェブサイトを開設しました。長男の稔明さんは、名印想のコンセプトに当てはまる商品を開発し、ラインナップを増やしています。新たなブランディングにより、百貨店などへの出店の機会も増えており、さらに新しい市場の開拓にむけて実績を積み上げているところです。
 
(株式会社ゴンウェブイノベーションズの成功事例です)
 
※ページ上の内容は2024年10月時点の情報です。
 
株式会社小林大伸堂
ウェブサイト https://www.tamarizuke.co.jp/